ときどきくさっぱら ●3号(04.2.19) ●2号(02.12.6)

ときどきくさっぱら 3号 2004.2.19発行



さくら、来る



 12月24日朝、「くさっぱら」に一本の若木が仲間入りしました。しだれざくら。
 『サクラキル』。カタカナ見出しが横切る『ときどきくさっぱら』、覚えていらっしゃいますか。ナボ(下中菜穂)さんの悲痛な思いのリポート。あれから1年ちょっと経ちました。あの時、危険だからと切られた、幹の中央に空洞の出来た桜の生まれ変わりとして、大田区公園課が手配してくれたものです。

 朝早く、お掃除をしながら、しだれざくらの到着を待ったのは三人。のの(野々村裕史)さん、ブヤ(下中弘)さん、林。いつもより丁寧に、藪に放り込まれた空き缶やビニール袋を拾い集めたら、イノコズチの実が体中に付着していました。そう、子供のころ、冬場、近所の草っ原で遊んだら、こうなったんだよね。「くさっぱら」も一人前の草っ原として成熟してきたな。
 ほどなく、植木屋さんのトラックが着いて・・・・
荷台に斜めに乗せられていたのは、想像していたよりずっと大きな若木でした。

 植木職人さんたちは前もって打ち合わせした所に、手早く、力強く穴を掘り始めました。お手洗いの西のベンチから1メートル程、踏み固められて草一本生えていない場所です。深さ、直径70センチになって、職人さんはシャベルの動きを止めました。
 3人がかりで荷台から運んで来た若木は高さ4メートル近く、芯がまっすぐに立っています。「しだれ」桜なのに? 親方が「ここに来る前に、仮植えしていた畑で添え木が当てられていたせいですよ。そのうちに、これも垂れますから、高さはもう少し低くなります」と教えてくれました。

 丁寧に向きを決めて、根回しのこもの上と穴のすき間に黒土を入れて、3本の添え木を結ぶと、風情はすっかり、春を待つしだれざくらになりました。
立会いの三人はウキウキしてきました。「何年か経ったら、くさっぱらの大しだれなんて呼ばれていたりして」などと軽口も出てきます。よく見ると、垂れ広がった枝先には、太った花芽がずらっと連なっています。「もう花芽が育っていますから、今度の春には花が見られます。むしろ、来年、再来年に移植の影響が出るでしょう」。これも親方の言葉です。
 根元をしっかり踏んで、水をたっぷり与えて、植木屋さんは帰っていきました。

 その日の午後、用事があって「くさっぱら」のそばを2度通った私は、2度とも公園に足を踏み入れて、植えられたばかりの若木を眺めていました。暮とは思えない暖かさのせいだったかもしれません。が、何より、心が温かくて、新参者に会いたい気持ちを抑えられなかったからです。偶然、2度とも年配の利用者に声を掛けられています。
 最初は夏みかんの木の下に、自転車をとめていた女性。まだ濡れているしだれざくらの根元に、ちょっと蒔き時は違うけど、ダメもとで草花の種を蒔いていた私に「これは何の木ですか」と聞いてきました。

 2度目は入り口の石段の上で、7、8人の小学生が思う存分走り回るのを眺めていたとき。ふと気がつくと、隣に男性が立って、同じように「くさっぱら」を眺めています。「いい公園だねェ。いまどき、こんな、自然のままの公園なんてないよ」。自分の身内がほめられたみたいに、くすぐったくも、いい気分になりました。池上に住むというこの男性は、頻繁に「くさっぱら」を利用しているらしく、この時期、西に傾いた太陽光線で真っ赤に色づいたもみじを眺めるのが好きと言います。そして、「この春はこのベンチが花見の特等席だ」と、しだれざくらの到来をことのほか、喜んでくれました。
 植えた若木に子供たちがいたずらするのではないか。実は、とても心配でした。自転車で、自分の足で走る子供たちは、2学期の終業式を翌日に控えたこの日、とてもお行儀がよかったことを報告しておきます。

(林初子)